税理士はAIで仕事がなくなる?今後、求められる税理士像は?

AIで変わる税理士業界イメージ

「AIで税理士の仕事はなくなる」

そんな報道で税理士業界の未来に不安を感じている人もいるかもしれません。

税理士業界はデジタル化、AI化で大きな変化の局面を迎えています。しかし、「税理士不要論」はあまりに一面的な見方であり、今後も税理士は有望な職業であることに変わりはありません。

20年以上にわたって会計事務所を運営してきた私が以下のテーマについてお話しします。

  • 税理士業界の変化
  • これから求められる税理士像と必要なスキル
目次

AIで変化する税理士業界

務、会計業務のデジタル化、AI自動化が加速

会計ソフトの普及により、会計業務のデジタル化が進んでいます。

さらにAI搭載のクラウド会計ソフトが登場し、帳簿の入力や決算書の出力作業などを自動化できるようになってきています。これにより税理士の仕事がなくなるのではと言われています。

これについてはAIが得意とする分野と、人間にしかできない仕事はどのようなことなのか理解することが大切です。

AIによる業務自動化が可能な分野

AIは膨大なデータを読み込んで処理し、エラーを発見することが得意です。

AI搭載のクラウド会計ソフトが普及し、会計業務に伴う入力作業の自動化が進んでいます。これにより人為的なミスが減少し、経理、税務に携わる人の作業時間の効率化が進んでいます。

AI搭載のクラウド会計ソフトの主な機能
  • 自動仕訳: クレジットカードや銀行口座と連携して取引を自動記録
  • データ入力効率化: AI-OCR技術で領収書や請求書の情報を自動抽出
    • AI-OCR技術とは紙に書いた文字や画像をAIが読み取ってデジタルデータ化する技術です。
  • 決算・申告業務の簡素化: 決算書や税務申告書を自動作成

当事務所でも10年ほど前からAI搭載のクラウド会計ソフトを導入しています。当初は自動仕訳も正確性が不安定だったり複合仕訳不可だったりと修正がかなり必要でしたが、最近では改善が見られます。

当事務所ではAI搭載のクラウド会計ソフトの活用により業務時間を約20〜30%ほど短縮する効果を実感しています。またヒューマンエラーが減ったことでスタッフのストレス軽減にも繋がっています。

AIでは解決できない業務

AIでも効率化できない業務ももちろんあります。

自動仕訳に関してもまだ課題はありますし、税務相談や法解釈が必要な場面、特にクライアントごとに異なる税務処理や法解釈の必要性がある場合はAIの限界も明らかです。複雑な税務戦略の提案は、AIにとって難易度が高い領域です。

税理士の3つの独占業務はどうなる?

我が国では法律で次の3つが税理士の独占業務とされています。

税務の代理

税理士が顧客の代わりに税務申告、納税手続きをなどを行う。税務署とのやり取り、税務調査への対応、異議申し立てなどが含まれる。

税務書類の作成

企業や個人の税務申告に必要な書類の作成。

税務相談

企業や個人が直面する税に関する疑問や問題に対し、アドバイスを提供する。

将来的にはAIが「税務書類」を作成し「税務相談」もAIで十分だという声もあります。

しかしAIはあくまでも道具です。例えば税務調査への対応、異議申し立てなど顧客の立場に心をよせ、専門家として対応することは税理士にしかできません。AIが行った会計処理に人間が従い、意義を申し立てられなくなったら、それはディストピアです。

税理士は税務の専門家として、これからも確実に求められる存在です。

複雑化する税法、新制度

税に関する法改正、新制度などは常に変化しています。この10年ほどの間にも以下のようになど税関係の改正、新制度が目白押しでした。

法人税率の段階的な引き下げ

国際課税ルールの改正

インボイス制度の導入

NISA制度

改正相続税法

「AIで税理士不要」どころか税理士業界はこれらの対応にかなりの時間を割かれたと思います。これらが複雑に影響する税理士の仕事はAIでも対応できるものではありません。今後も税理士は大きく変化する新制度をスムーズに運ぶため、専門家としてサポートすることが強く求められています。

今後の税理士に求められるスキルと役割

AIの登場や新制度の導入などで税理士に求められる役割やスキルも大きく変化しています。

今後、税理士業界はどんな役割を期待されてるか考察してみました。

顧客により添い、支える力

AIの登場や国際情勢などにより、変化の波にさらされているのは、もちろん税理士業界だけではありません。さまざまな企業、個人が変化の中で真剣な対応を求められています。

税理士には、クライアントの変化に即応し、適切なアドバイスを提供する役割が求められます。単なる税務申告の代行を超え、経営や将来の課題を共に考える「パートナー」としての存在です。AIでは補えない洞察力と柔軟な対応力が、税理士の価値を高める鍵となります。

法改正や最新情報への対応力

前述した通り、税務に関する法改正は頻繁に行われています。それらの最新情報をキャッチし、クライアントに適切に提供することは重要です。

今後、税理士が学ぶべきことは税法だけでなく、国際税法、経営、投資、AIリテラシーなど多岐にわたります。全てを網羅するのは難しいので特化する分野を決めていくのが良いでしょう。

的確な情報をクライアントに提供、対応していくことが信頼を得るための大きな要因となります。

コンサルティング能力の重要性

税理士には、クライアントの経営に直接貢献するコンサルティング能力が求められると感じています。実際に会計事務所を運営している中で、単なる税務処理に留まらず、企業の成長を支援するアドバイスを期待されることが多くあります。

特に、税務知識を活かして以下のような支援を行う場面が増えています:

  • 事業計画の策定サポート
  • 税務リスクの評価と最適化
  • 資金調達や投資戦略の提案

こうしたコンサルティング業務は、AIだけでは実現が難しい部分も多く、税理士の専門性が求められる領域です。これからの税理士には、より深い知識と実務経験を活かして、経営面での価値提供が期待されています。

クライアントとのコミュニケーション力

AIでは再現できない人間らしいコミュニケーション力も、税理士に求められる力です。ビジネスマンとして心掛けたいのは次のようなことです。

  • 顧客の悩みを的確に理解する能力
  • 複雑な税務内容を簡潔に説明するスキル
  • クライアントの目標に沿ったアプローチ

このような関係性はAIには築けないため、税理士が果たす役割として非常に重要です。

次に、AI時代における税理士が提供できる新たな価値について掘り下げていきます。

AI時代における税理士の新たな価値提供

AI時代を迎え、税理士には新しい価値提供の可能性も広がっています。

データ分析やリスクマネジメントといった分野で、AIを活用した高度な支援が可能です。

データ分析を活用した経営支援

AIによるデータ分析を活用することで、税理士はクライアントの経営を支援する新たな役割を果たせます。財務データをもとに、経営戦略や課題解決の提案を行うことで、より実践的なサポートが可能です。

  • 収益性やコストの分析
  • 将来の財務リスクの予測
  • 成長分野への投資戦略提案

例えば、月次の売上データをAIが分析し、税理士がそれを基に事業改善の提案を行うといった手法があります。これにより、クライアントはデータに基づいた意思決定を行えるため、信頼性の高い経営支援が実現します。

リスクマネジメントと内部統制の強化

税理士は、企業のリスクマネジメントや内部統制をサポートする役割も求められています。AIによるデータ解析と税理士の知識を組み合わせることで、企業のリスクを最小限に抑える提案が可能です。

  • 税務リスクの早期発見
  • 内部統制のプロセス改善
  • コンプライアンス体制の強化

例えば、AIが取引データを分析し、不正や異常なパターンを検出することで、税理士が早期に問題を指摘できるようになります。

事業承継やM&Aにおける専門的アドバイス

税理士が得意とする領域の一つに、事業承継やM&Aがあります。

これらの複雑なプロセスにおいて、AIの分析を活用しつつ、税理士の専門知識を活かした提案が重要です。

  • 事業承継計画の策定支援
  • M&Aにおける財務デューデリジェンス
  • 税制優遇措置の活用提案

例えば、事業承継に際し、AIがシミュレーションを行い、税負担の最小化や資金繰りの最適化を提案するケースが増えています。これを税理士がクライアントの個別事情に合わせて調整し、実行可能な計画を提供することで、付加価値が生まれます。

まとめ

AI時代の到来により、ビジネス環境はこれまでにないスピードで変化を遂げています。この変化は今後も加速していくでしょう。そんな中、税理士は税務という経済活動の基盤を支える専門家として、確固たる役割を果たす存在です。

しかし、AIが税務業務を効率化する時代だからこそ、税理士には新しい役割とスキルが求められています。AIを活用して生まれる時間を、クライアントの経営支援や税務リスクの管理、さらに高度な戦略立案に充てることで、税理士としての存在価値をより高めることができます。

単なる税務処理の専門家ではなく、経営パートナーとしてクライアントと共に成長する姿勢が、これからの税理士に求められるものです。税務の専門性と人間的な信頼関係を武器に、AI時代に適応しながら、経済活動の重要な一翼を担い続けることでしょう。

税理士は、これからも社会にとって欠かせない存在であり続けます。新たな時代の変化を恐れず、柔軟に対応しながら、自分自身の価値を磨いていくことが大切です。

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